臨済宗で多用される釈尊成道の感興偈、「奇なるかな奇なるかな、一切衆生悉く皆如来の智慧、徳相を具有す、ただ妄想執着あるゆえに証得せず」は、そのままの形ではいかなる経典にも見出されない。しかし、『八十巻本華厳経』には類似の内容を説く教説が散見される。本偈は同経の「爾時如來。以無障礙。清淨智眼。普觀法界一切衆生而作是言。奇哉奇哉。此諸衆生。云何具有如來智慧。愚癡迷惑。不知不見。我當教以聖道。令其永離妄想執著。」と「復次佛子。如來智慧。無處不至。何以故。無一衆生。而不具有如來智慧。但以妄想顛倒執著。而不證得。」の合成と考えられる。
特に後者を基礎にして、「無一衆生。而不具有如來智慧。」の部分を自然な漢文として、同意趣の「一切衆生具有如來智慧」に改変し、前者の「奇哉奇哉」を加えて感嘆の言葉としたものに見える。
これに釈尊成道の偈という文脈を与えたのは大正大蔵経による限り、宗密あるいは大慧宗杲である。この偈は、主に禅の語録に頻出する。
ここで宗密を嚆矢と断定しないのは、彼の主著『原人論』には「故華嚴經云。佛子。無一衆生而不具有如來智慧。但以妄想執著而不證得。」、「次後又云。爾時如來普觀法界一切衆生。而作是言。奇哉奇哉。此諸衆生。云何具有如來智慧迷惑不見。我當教以聖道。令其永離妄想。」とほぼ正しく引用されているからであり、問題の感興偈が登場する『註華厳法界観門』が宗密の真撰であるか否かには若干の疑問が残るためである。
- 法話「仏教徒の覚悟」: 臨済・黄檗 禅の公式サイト
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